COLUMN

銀河鉄道の夜 家

ジョバンニがいきおいよく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱にむらさきいろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆ひおおいが下りたままになっていました。
「おっかさん。いま帰ったよ。工合ぐあい悪くなかったの。」ジョバンニは靴をぬぎながら云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日はすずしくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。」
 ジョバンニは玄関げんかんを上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口のへやに白いきれかぶってやすんでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。」
「ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。」
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
「ああ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。」
「来なかったろうかねえ。」
「ぼく行ってとって来よう。」
「あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
 ジョバンニは窓のところからトマトのさらをとってパンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。

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